架空鉄道 小野川電鉄
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始発電車
朝の4時半ごろ、冬の夜明けは遅い。明かりは街灯と星の明かりだけ。まだまだ夜の景色だ。そんな街灯の下を「よっさん」こと、吉岡慎一郎は高村駅の乗務員詰所へ向かい歩いていた。
「ふぅ、冷えるなぁ…。そろそろセンター試験だっけな。」
吐く息は白く、すぐ空へ溶けていく。
更衣室で制服に着替え、点呼を受けに行く。運行本部で自分の名札を見つけ、ひっくり返す。
「第101行路 出勤4:45」自分の行路と出勤時刻をチラッと確認して、運行掲示板へ向かう。
運行掲示板には、工事関係の徐行や臨時の制限、編成の差し替えなどが張り出されている。その中から自分の乗務に関係あるものを確認していく、沿線で随時行われる架線や軌道の保守・整備や車両故障などで、変更事項が絶えないのが鉄道の現場だ。
相方の車掌と合流し当直助役を前に点呼を行う。

「第101行路、点呼願います。」
「はい。第101行路、点呼始めます。」助役が答える。
「第101行路、運転士 吉岡慎一郎、健康状態良好、異常なし。」
「第101行路、車掌 高見健一、健康状態良好、異常ありません。」
「はい、承知しました。……」
点呼は淡々と続いていく。健康状態、連絡事項や今月の目標などを当直助役と確認していく。
車掌の高見は笠井町までの乗務、定期運賃の関係で笠井町は学生の利用が多い。そこで、朝ラッシュのみ駅員を配置している、その送り込みを兼ねた車掌常務という訳。
「第101行路、確認しました。それでは時計の整正を行います。」
「時計の整正。4時53分、10秒、11秒、12秒…。」
「11秒、12秒、13秒…。時計の整正よし。確認しました。」
鉄道は秒単位で正確に管理されている。ローカル線である小野川電鉄でも例外ではなく、乗務員の時計も点呼の際に、運行本部の時計と時刻の確認を行う。
「はい、ありがとうございます。」
「はい。それではお気をつけて。点呼終わります。」

当直助役からブレーキハンドル・スタフを受け取ると、乗務する電車がある車庫線へ向かう。車庫の中は、水銀灯の鈍い明かりに包まれている。今回の「相方」は5000形の第3編成だ。ハンドスコッチを外し、運転室に上がる。
「メイン電源入、よし。MG電源入、よし。制動…圧力よし。……」
パンタグラフが上昇すると、MGやコンプレッサー…様々な機器の動作音が車庫内に響き渡る。電車が目覚める瞬間だ。
一通りの動作確認を終えると、下回りの目視点検のために運転室を降りる。
「ケーブル、よし。メーよし。ブレーキストローク、よし。……」
車掌も車内放送の音量を確認したり、車内整備にと忙しく動いている。車掌との連絡電話の感度確認、最後に運行本部との無線感度確認を終えるといよいよ出庫だ。

「入換信号良し!周囲の安全よし!発車!」

狭い構内を小さな電車は身をくねらせながら何度か行き来する。電車の動きが複雑で、人の往来も絶えない駅構内を走る入換作業は、始発電車とは言え気が抜けない。

始発電車は静々と高村駅3番線に滑り込んでいく。ホームでは合図灯を持った駅員が電車を迎えている。帽子に走る2本の金帯、白髪混じりの髪の毛、どうやら駅長のようだ。

「はーい、お疲れさまです。今日は冷えるね。」
「お疲れさま。次の下りは霜が多そうだな。里も気が抜けないけどな。」
駅長は、ちょっと待ってろ。と言うと駅本屋に帰っていく。こちらに戻ってくる駅長の手には牛乳瓶が握られているようだ。
「うん、コーヒー牛乳。熱いぞ。」
冬場、駅事務室のストーブの上には、お湯を張った鍋がいつも置いてある。加湿をする意味もあるのだが、必ず牛乳瓶が2~3本浸けてあって、駅員や到着した運転士などに振舞われる。正月の時は、お湯がおでんになってて驚いたな、もちろん美味しく頂いたが。
「お、サンキュー。いつもありがとね。」
こんな田舎の始発電車だから乗客の顔も固定されている。馴染みの顔が改札を抜けて車内に吸い込まれていく。どの顔も眠たそうで、さっそく車内で熟睡している人も一人。彼にとっては、この電車での移動時間も貴重な睡眠時間なのだろう。
コーヒー牛乳を飲みながら駅長としばし談笑、まだ発車までは時間がある。

「おい、よっさん。信号開通。」
信号機を指差し、駅長が言う。うっかりしていた、慌てて運転席に戻る。
「ATSよし。列車無線よし。」スイッチ類は問題なし。
「高村、5時05分15秒発、三番線出発進行。逆転ハンドル、前、よし。」

車掌が短く笛を吹く。ドアが閉まる、駅長が合図灯を高く上げる。電鈴2打を確認。
「合図よし、圧力よし!三番線出発進行!」

3番線のホームは右側で、窓を閉めているので声は聞こえない。必然的に挙手での挨拶になる。

「いってきます。」「気を付けて。」

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